インパルスハンマーのDIY
インパルスハンマー.
物体をたたくことによって固有振動数や振動モードを測定するための機器である.
繊細(センサーが)かつ大胆(ハンマーで殴るとこ)な機材だが,
とにかくめちゃくちゃ高い.
ハンマー1本20万円(しかも相手の大きさによっていろいろな重さのが必要),
加速度ピックアップひとつ10万円~,
FFTアナライザ60万円~200万円,
追加の解析ソフト数百万円(やりたいことによる),,
と に か く 高 い .
やってみて加振力が足りないからもうちょっと大きいハンマー用意してみようかー,とか言われるとそりゃあもう大変なのである(言われた).
一式あって追加するならまあマシなほうで,最初に一式そろえることを考えたら逸般の誤家庭でも無理だろう.
さてそんなインパルスハンマー.
力センサーの入ったハンマーで対象を加振し,貼り付けた加速度計での測定値と比較する.
ハンマー側はひずみゲージとか圧電素子によるものが多く,加速度ピックアップは圧電型やコイル型などがある.
DIYの試みはUniversity of AdelaideのCarl Howardや,
University of SalfordのPatil, Nikhilesh
http://www.sea-acustica.es/fileadmin/INTERNOISE_2019/Fchrs/Proceedings/1955.pdf
によってなされている.
国内では事例がなさそうだった.
後者のやり方を見ていくと,ハンマーは打検用のテストハンマーとし,ハンマーの後端に加速度ピックアップを貼り付けているように見える.
較正にはホンモノのインパルスハンマーを用いていて,見た感じ十分に類似した波形となっていそうだった.
しかしまあ加速度ピックアップだって十分に高いので,DIYでは加振や受信のセンサーにそれを使うわけにはいかない.
そこで,今回は,秋月電子を巡回していた所見つけたMEMSセンサによる3軸加速度モジュール
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-07234/
を受信側に利用することにした.750円/個.
最大でも1.6kHzまでしか見えないが(軸,出力コンデンサの値によりもっと低くなる),まあDIYならそんなもんでしょう.
個人的には低周波数帯が見たいので問題はない.
これの良いところは信号がアナログ電圧で出るため,複数データのタイミングの問題が起こりにくい点.
加振側もできればMEMSセンサーにしたいところだが,衝撃加速度が大きくたいていのセンサーは振り切ってしまうため,今回は圧電素子,というか圧電ブザーを利用した.319円/10個.
これだと,かなりの衝撃に耐え,発する電圧もオシロで見やすい程度のものが出てくる.
素子の固有振動の問題を考えると,小さめの直径の素子がいいんじゃないかと思う.
大きすぎるとハンマーヘッドからはみ出るし.
購入した素子は直径12mm,最小周波数8000Hzのもの.
MEMSセンサーは3V程度の電源が必要.消費電力はたいしたことないので,まあ電池でもいいんじゃあないでしょうか.
圧電素子は電源不要.
その他,デジタルストレージオシロスコープをご用意いただくが,逸般の誤家庭にはふつう1台や2台あるので大丈夫でしょう.
今回はRigolのDS1054Z(改)を使用.
3軸加速度モジュール.
底面が平らになるように,ピンヘッダをはんだ付けする.
底面がでこぼこになると,対象物に貼るときにめんどい.
比較的ノイズには強いようなので,ケーブルは適当でよい.
モジュールの貼り付け方によって周波数特性が変わるが,今回は薄め両面テープを想定している.
理由は楽だからだ.
ハンマー.
ヘッド交換式ハンマーを好みの重さで用意する.
今回は約100gから約1kgまで5本用意した.
先端に傷をつけにくいプラチップを基本に,真鍮チップ,鉄チップ,ゴムチップなどがあるが,そのメリットデメリットはここで解説する気はないので別途専門書を見てほしい.
今回はプラチップを使う.プラチップの反対側のチップに両面テープで圧電素子を貼り付ける.
ここで,べたっと全面を貼りつけてしまうと,加振によって圧電を発することが難しくなるため,わざと中央部を貼らずに,上下端のみ貼り付ける.
次に配線をはんだ付けするが,圧電素子の内側部分は特に繊細ですぐはがれるので,ケーブルのテンションが素子にかからないように注意する.
また,こちらのケーブルは商用電源からのノイズをばっちり拾うため,シールドケーブルなどまともなものを使わないと測定結果に50Hzが乗ってよくわからなくなる(なった).
適当に配線を処理する.
本当に適当なので,今度BNCケーブル仕様に変更するつもり.
何もそんなに揃えなくても.
4chデジタルオシロだと,XYZ3軸とハンマリングの信号を同時に入力できる.
実験モード解析のときは,2か所のセンサーで測定したいが,,まあ,オシロを2台置いて,ハンマーの信号を分岐させればいいんではないだろうか.
多チャンネル高速データロガーをお持ちなら,それで.
ハンマーからの信号でオシロをトリガし,信号を記録する.
DS1054Zはメモリポイントが3Mもあって,マジに保存すると時間がかかったりExcelで開けなくなったりする.
状況にもよるがScreenデータのcsv保存で十分ではないだろうか.
なお,測定時間レンジが解析の周波数分解能などに影響するので,まあいろいろ試してみるとよいと思う.
記録した信号を処理する.
今回はpythonで処理し,グラフにする.
まあぶっちゃけた話,今回の信号処理はほとんどWATLAB(https://watlab-blog.com/)のコード例に頼りっきりであったので,Shimalithからいうべきことは特にないし,そんな事情なのでコード例が提示できない.
オシロのScreenメモリモードで取得したデータであればデータ点数がそこそこなので処理は簡単だが,
メモリのフルデータを吸い出してしまった場合,適当に間引く必要があると思う.3Mはやりすぎ.
結果.
ちょっと何を測ったかは言えないのだが,グラフである.
ノイズもまだ多いし,25Hzと50Hzに商用電源ノイズの影響と思われる胡散臭い山谷があるが,それ以外の部分はまあ当たっていそうな気もする(いくつか想定していたところにピークが出ている).
大きいコンビネーションスパナをメガネ側でつるしてたたいた時.上のグラフから,下,中間,上端.加振点はいずれも下端.
測定が失敗しているので,その影響が出てそう.
ノイズ対策にいくらか改善の余地と,ホンモノとの較正が必要かな.
2022.02.02追記
調整した.
まず,ハンマのケーブルを同軸ケーブルにした.これでかなりノイズが収まった.
センサ側も当初はシールドなしのロボットケーブルに変更したが,ノイズがコヒーレンスの値にばっちり効いてくると分かったので,とりあえずその辺にあった6芯シールドケーブルにした.
オシロからのデータの取り出しをUSBメモリで行うと,フルメモリだと数10分かかるため2400ポイントのモードを使っていたが,オシロをPCに接続してオシロ付属のUltraScopeというソフトで読み出しをするとかなり早くデータの読み出しができるようになった.
ただ,3Mポイントのメモリデータは取り扱いに難があるため,pythonで任意の間隔で間引きを行う(ついでにヘッダを消去したり時間データを正しくしたりする)プログラムを書いた.
解析プログラムは,ファイル名が連続している前提で複数のファイルを連続で読み込み処理する箇所や,結果のうち周波数を限定して取り出す際にレンジを調整する箇所を作成した.
例によって何を見ているかは言えないやつ.
ピークがはっきりした.
このデータを取った後,ノイズを拾っている個所をさらにチェックしたところ,センサのシールドがない部分が原因だったため,またケーブルを交換する必要がありそう.