DIYシュリーレン3
帰ってきたシュリーレン
数年ぶりにシュリーレンの話題です.
過去(1回,2回)とDIYシュリーレン装置について触れてきました.
鏡やレンズについては市販品が使えることを示しましたが,
ナイフエッジ周りの調整がおそらく難易度が高く,なかなか試しにくい,
また,直径が大きく品質の良い鏡やレンズがやはり手に入りにくいので,
広い観察範囲を見るのには向きませんでした.
もう少しすぐにセットアップできる装置にするにはどうしたらよいか考えていたところ,
これまでとは異なるタイプのシュリーレンを試してみようということになりました.
今回試すのはフォーカシングシュリーレンという形式(あるいはその亜種)になり,以下のようなメリットがあります.
・品質の高い一眼レフ用などの交換レンズが使用できる.
・レンズの直径よりも大きな範囲を観察できる
・シュリーレン専用に用意する物品が安価
・ピントの合う浅い範囲の変化のみを観察できるので,窓越しでも動作する
ではいってみましょう.
まず,ムラを出すための装置として,
1. 白黒の縞を印刷した紙(ソースグリッド)
2. 同じく,縞を印刷したOHPシート(カットオフグリッド)
3. 紙を照らす照明
が必要です.
1.の紙は照明で照らすことによって,白色部分が光源とみなせます.
ここから出た光線がカメラレンズを通った後,2.の縞によってさえぎられることによってカメラに届く明るさが減りますが,
ここで観察対象(空気)の密度変化によって光線が屈折すると,さえぎられるはずの光が縞の隙間を通るようになったり,
通過するはずの光がさえぎられたりして明るさに変化を生じます.
ここではより大きい面積を確保できるよう1.と3.を使っていますが,もともとは光源を拡大し,
フレネルレンズでおおよその光線方向を整えたあと,透明シートに印刷した縞に通してソースを作っていました.
この方法だと大面積のコントラストの良いシートを印刷する手法について詳しくないと
まずA4より大きいソースグリッドが作成できないため,あまりお勧めしません.
2. のOHPシートはインクジェットあるいはレーザプリンタで印刷できるシートが市販されているのでそれを利用します.
シートに印刷する縞の幅は1.で印刷した紙の縞の幅によります.
紙に印刷する線の幅があまり細いとカメラの解像度を超えたり,
カットオフグリッドをシートに印刷する際のプリンタ解像度を超えたりするので,紙(ソースグリッド)の縞は2~数mm幅にしましょう.
OHPシートに印刷する線幅はカットオフする際の反転像のスクリーンサイズから考えて,
ソースと同じ本数の線が入るグリッドが印刷できれば理論上は可能なはずですが,
どだいそんな芸当は無理
なので,拡大縮小していろいろな線幅のグリッドを用意しておきましょう.
よくあるフォーカシングシュリーレンの設置図を示します.
このように設定するので,撮影可能範囲はおおむねソースグリッドの1/4以下の面積(縦横とも半分以下)になります.
大きいソースグリッドが用意したかった理由はこれです.
ソースグリッドから出た光のうちレンズに向かったものは交換レンズを通り,(遮光のためベローズの中を通り),
カットオフグリッドでカットされ,カメラのセンサで画像化されます
交換レンズは100mm前後の焦点距離のものが良いです.(ここでは35-80mmのレンズのズーム端を使用)
絞りを手動で開けたいので,絞りリングのある古いニコンのレンズが使いやすいですが,
絞りレバーをむりやり押して開けてしまえればそれでよいです.
撮影カメラはフランジバックの都合から,ミラーレス一眼を利用するほうがうまくいくでしょう.
間にカットオフグリッドを挟む都合上レンズとカメラをマウントで結合できないため,
マウントアダプターに生えている三脚座を使って固定します.
レンズの前後方向の位置の調整もしたいですが,研究用の光学ベンチは高額なので,
市販品の中からビデオ撮影用のレールシステムを買ってきました.
これふたつ買ってきて合体させると,カメラ本体とレンズをレール上に固定できるようになってべんり.
まず壁のパターンにピントが合う位置を探し,そのあとそれよりも手前にピントを合わせます.
カットオフグリッドを変えていき,ソースとカットオフ間のモアレが出るところを見つけます.
モアレ縞が出たら,DME入りのエアダスターなど密度差の大きいものを観察すると,縞に乱れが出るのが見える時があります.
そうしたら,できるだけモアレ縞の幅が太くなるようにカメラ位置やカットオフグリッドを変更していきます.
そのほうが変化の輪郭は観察しやすくなります.
…と言いつつ,ここまで実際のセットアップ写真がない不思議に気付いたのだとしたら,
あなたはカンが良い人です.
印刷グリッドでセットアップするのは難しいんだってばっ
そこでここからは,もう一つ要素を足した形で進めます.
ここまでのシュリーレン装置にはやってみると容易にわかる問題点があります.
・機材の位置関係が変えられない
ソースグリッドとカットオフグリッドの線の間隔が固定であるため,
ソースグリッドとカメラの距離が変わってしまうと,適合するカットオフグリッドの線間隔が変化してしまいます.
無数にグリッドを用意しておけばよいのですが,当たりの組み合わせを見つけるのが大変です.
・ソースグリッドを印刷しないといけない.
A2くらいまでならコピー機で拡大すれば作れますが,それ以上となるとやってやれないことはないものの,準備が大変です.
(出典: Visualizing Full-Scale Ventilation Airflows By Gary S. Settles, Ph.D.
(出典: Full-Scale Schlieren Flow Visualization
https://www.researchgate.net/publication/237548759_Full-Scale_Schlieren_Flow_Visualization)
また,壁一面を目がチカチカする白黒の縞に塗らせてもらえるかどうか考えると頭が痛い話です.
これを解決するためには,ソースグリッドあるいはカットオフグリッドを可変にする必要があり,
考え出されたのが Benjamin D. Bucknerらによる特許(US 9,232,117-B2)のdigital schlieren imagingです.
これは,ソースグリッドの縞模様パターンをデジタル技術で投影あるいは表示することにより,
グリッドの印刷,可変の問題を解決しようとするものです.
(参考: Digital focusing schlieren imaging
http://www.spectabit.com/images/ProcSPIEdigschlierencorr.pdf)
補足の1
(なお,Shimalithはこの特許の新規性について疑問です.
印刷グリッドをやってみれば問題点はすぐに明らかになるし,
解決策で提示されているプロジェクタによる投影は,フレネルレンズを使ったグリッド生成を見れば,
それがリアプロジェクション式テレビと同じ構成であることは明らかなので,
容易にグリッドの可変にテレビ等を使うところまでたどり着くと思います.
思いますが,現に登録されてるんだから仕方ありません)
補足の2
(カットオフグリッドを可変する方法もありますが,利用価値はソースの投影方式と比べ若干落ちます.
なお,可変カットオフグリッドは現代の高精細な透過型液晶で容易に作れるだろうと予測できるため,ここにあえて書いて公知としておきます)
補足の3(免責)
知る限り,この特許はアメリカ以外で登録されていません.
また,個人利用は特許の権利対象外(多くの場合,研究利用も対象外)となるため,実質的に国内では利用できると思われますが,
もしかしたら日本その他の国でも権利化されているかもしれませんし,
たとえば,装置をつくってアメリカで商売した場合は間違いなく訴えられるでしょう.
やり方
ソースグリッドの代わりにスクリーンあるいは単色の壁を置き,プロジェクタで縞を適当に投影します.
レンズ,カットオフグリッド,カメラをフォーカシングシュリーレンのときのだいたいの位置にセットし,
(一般に,下図のような距離感https://people.rit.edu/andpph/text-schlieren-focus.html
や,http://aero.tamu.edu/sites/default/files/images/news/floryandanielreportusrg12.pdf
と言われているが,
試した限りだと,グリッド-カメラ間はフランジバックの問題もありカメラ直前におかないといけなかった)
背景の縞にピントが合うことを確認したあと撮影対象にピントを合わせます.
(背景にはピントが合わなくなります)
投影グリッドとのモアレパターンがいい感じ※になるまで投影するパターンを拡大縮小します.
※いい感じ モアレ縞が広くなり,結果として画面の大部分がグレーとなる状態.
縞が細かいと明るい部分の変化が見えにくくなるし,変化の輪郭もわかりにくい
動作状態を動画で示します.
エアダスターの噴出とそれによるシステムの調整の様子.
途中で縞の大きさを変えている部分がある.