実験結果
実験してわかったこととか
前処理 サンドブラスト
Fig.1にブラスト加工後のワークを示す.
Fig.1 ブラスト加工後のワーク
表面の塗装が落ちて梨地になっている.水分で腐食する恐れがあるので研磨粒の洗浄は実験直前までしない.
表面に油分が付かないよう注意して保管する.
溶液調製
・H2SO4調製でのミス
硫酸込みで3Lとするところを,3Lの純水に対して投入してしまったため,約10%の濃度誤差が発生した.おそらくそのままでも実験は可能だったが,失敗したとき原因がどこにあるのかを究明するためには,修正できるミスは修正しておくのがよいと判断し,投入比からwt%での濃度を算出し,改めて4Lの溶液として調製し直した.
なお,その際「液体で投入するものを体積比で指定するのはおかしい(合計体積が足し算の結果にならないと検証できなくなる)のではないか」と言う指摘があった.電気機械系の操る化学はいい加減である.
今回調製したものには揮発性のものがなかったため,保管が出来て楽であった.
前処理
ウォーターバスを使用し加温したH2SO4とNaOHを使用した.
・H2SO4は保温温度が 70 ℃と高く,水分蒸発が大きいので使用時以外蓋をしていた.また,元々の溶液量を管理し蒸発減少分を補水した(硫酸自体は不揮発酸).
なお,低温でも処理は出来るが,アレニウスの10℃2倍則に従うので,処理時間が30℃低いと8倍かかることを覚悟しないとならない.
・界面活性剤は,硫酸酸性下で活性のあるゼフィラミンを最活性濃度 で使用した.
ほかにABS(アルキルベンゼンスルホン酸)が使用可能であるが,薬品庫になかった.
・すぐに表面の付着物や合金成分が溶出するので,純水で溶液を調製する意味はないかもしれない.
・NaOHによるエッチング処理では,Alが溶ける際に大量の水素ガスが発生し,NaOHを取り込んだミストとなっていて,咳き込むような状態となった,処理中に蓋をし,後には電解用に準備していたスクラバー付きドラフトチャンバー(Fig.2)で作業した.結果的には,電解処理時より水素発生は余程多かった.
Fig.2 スクラバー付ドラフトチャンバー
スクラバーは完全にオーバースペックである.コンソールから引き出されているコードは電解用電源からのもの.
・今回は下処理ミスで電解が失敗するのを恐れて梨地となるまで処理したが,金属らしさに欠けると言うコメントがあったので,もっと短時間の処理をしてもよい.
・このエッチング処理で,シマノHollowTech2クランク右側と,カンパニョーロ'06ケンタウルブレーキの左右キャリパー接合部品の一部で,黒変する異常が発生した.黒変したワークをFig.3に示す.
Fig.3 黒変したワーク(左側)
この黒変は,空気中での放置で黄金色に変化したため,合金中の主にCu成分がエッチッング処理によって表面に取り残され集積したためだと思われる.Fig.4に乾燥して変色したワークを示す.
Fig.4 乾燥して変色したワーク
今回はデスマット用の硝酸溶液を用意していなかったので,もう一度エッチングし黒変状態のまま純水中で1日放置し,その後洗ビンで純水を吹きかけて剥離した.Fig.5 に洗浄中のワークを示す.
Fig.5 洗浄中のワーク
電解で溶解すると思われるので,そのままでも問題ないかもしれない(ムラの原因になる可能性はある).
電解
○電極及びリード線
・銅線は不可
Cuは静的な状態ではH+より後にイオン化列で位置しているため溶解しないが,電位のある状態では陽極側から溶解する.また電荷がCuに集中してしまうため,Alの処理は全く進まない.その際電源は3Vで2Aと電圧が低い状態だった.
・ステンレスも不可
不動態が表面に形成されているステンレスボルトをAlワークと導線の電気的接続に利用しようとしたが,SUSは溶出こそしないものの,電荷がSUSに集中してしまって(水素の泡の発生がSUS側からしか発生しない)やはりワークの処理が進まない.おそらく電解に伴ってAlの酸化膜は成長し抵抗値が上昇するが,SUSの膜は成長せず,抵抗がワーク側より低くなって集中が起こると考えられる.やはり3Vで2A程度の電流が流れたので,溶液の抵抗なのだと思われる.
・波面に注意
空気/硫酸の界面に位置する導線は浸食と電荷集中が大きく,Cu,Al線の両方で波面で断線する例が多発した.波面を通過する部分をAl角材など線径を太くして浸食に耐えられるようにするか,表面を被覆しておく必要がある.今回はダイソーのAlワイヤ3mmに熱収縮チューブを付けた.
○ウォーターバス
水温が25℃あったため,実験条件15~20℃,実験内で±2℃の維持は,水温を下げるのに氷を投入するので変化が大きく難しかった.水温が実験条件と同じなら流し放しででき,またそれより水温が低いときも,加温の方が調整難度は低いと思われる.また,大量の水温調整済み冷却水を用意しておく方法もある.
当初実験失敗による硫酸の全量汚損を避けて1Lで始めたが,これも温度調整を難航させる原因となり,±2℃には収まらなかった.2Lくらいまで増やすと熱容量が増え,安定した.最終的にはワークサイズの問題で3Lまで使用した.
○硫酸溶液
電解により,合金中のCuその他のイオンで汚染される.このため,純水を使って調製する必要性はないと思われる.
イオン化傾向の小さいCuは陰極側で還元され,電極を赤くする. 溶液がCuイオンで青くなってくるとさすがに電解に影響が出てくるかもしれないので,適宜炭素陽極で電解して陰極側で回収する.
析出Cuは拭き取りで落とすことが出来る.
○陰極側電極
炭素電極として備長炭を当初使用したが,電気的接続が容易でなく,表面が粗く析出Cu除去も手間がかかるので,拾ってきたSUS板に変更した.
予備実験の様子をFig.6に示す.
Fig.6 予備実験
みてわかるとおり,導線で縛らないとならないし,毛細管現象は起こってCuが溶出していくし,かさばるので良いところは無い.SUS板が無難である.
○セパレータ
負極から発生する水素ガスの泡が槽に漂うことでよって+1~2Vの電位上昇がある.溶液の抵抗上昇は水温上昇に直結するので,セパレータで全体に広がらないようにする.セパレータを付けたために一部で泡が集中するのはさほど問題ではないようだ.ダイソーの目の細かい洗濯ネットを4つ折りで使用し十分な効果を得た.
○電解
約2A/dm^2となるよう表面積を概算し電流量を決定し,電解時の電圧の掛かりかた(10.5~12.5V)をみて調整し,45分間電解した.特に最後15分はポアーが変化するとカラー化できなくなるので,電流,温度とも変化させないよう努める.逆に,カラー化,ヨウ素添加する気がないときには,とにかく被膜が出来ればいいので電源につなぎ20℃以下に保てば問題ない(20℃以上では被膜が溶けることがある).
黒変したワーク表面で落としきれなかった部分は電解初期に少しなら溶解してくれるが,地金部の電解開始の遅れが表面の品質に影響を与える可能性が大きい.
最終的には3Lの硫酸をウォーターバス氷冷却で,電解中にコンビニに行ける程度まで習熟した.Fig.7に電源を示す.
Fig.7 電源(とタイマー)
電源が電流制御モード(CC)で動作している.電圧は制御電流を流せるだけの高さに自動で調整される.
着色
基本的に着色品質は電解の品質と直結する.
・有機色素染色(試験片のみ)
ダイソーのプリンタ詰め替えインクエプソン用シアンで2~3倍に薄めたものに数分浸漬し,水洗しても落ちない状態を達成した.Fig.8に染色したサンプルを示す.
Fig.8 染色したサンプル
これで水洗時に色落ちしたもののうち数枚はアルマイト自体が失敗していたため,簡単に表面に傷がつくような状態だった.Fig.9に水洗後のサンプルを示す.
Fig.9 水洗後のサンプル
Fig.8で示したサンプルはFig.9の右端である.他は水洗時に付着していただけだった染料が流れた.染料が流れたものも2枚ほどは傷はつきにくくなっていたが,条件の変化があったらしく吸着する部分がなかったようだ.中央のサンプルは引っ掻き試験(上のはさみの先で引っ掻いた)で傷が入った完全な失敗サンプル.失敗サンプルをつないでいたアルミワイヤはきっちり成功しているため,電気的接続に失敗した模様.
・アルミノン反応(試験片のみ)
ポアー内にもアルミニウムイオンが大量にあるはずなので,実験計画にない,Alイオンを取り込みキレートして発色することでAl確認反応のアルミノン反応を使用し着色した.
薄い赤色の着色が出来た.
なお,錯体反応の発色なので,耐候性は低いと思われる.
・2液式着色によるベルリン青(試験片,スギノクランク)
1液のFeイオン取り込みに苦労した.電解を掛けてイオンをポアー内に引き寄せる方法も試し多少の効果があったようだが,表面に電解時と逆の電荷を掛けるので表面に影響がありそうでやめた(電解失敗試験片も混ざっていたので正確なところは不明).
イオン拡散は結局のところ濃度勾配なのである程度イオンが浸入すると,取り込み速度は遅くなる一方と考え,3分浸漬後2液で化合させてしまうのを3サイクル繰り返し十分な青色となった. 1サイクル染色後 の様子をFig.10 に,染色完了後の様子をFig.11に示す.
Fig.10 1サイクル染色後
1,2サイクルでは,アイスブルーとなり,工業製品として流通しているものにない淡い発色となった.槽が既に黒いのは試験片での予備実験から少しずつ1液が2液内に入ってしまったためだが,実際の染色はポアー内に取り込まれた液の反応のみによってなされる.
槽に入りきらないため半分ずつ染色.ムラが目立たないよう少しずつ分割点をずらしながら作業した.
Fig.11 染色完了後
クランクは3サイクル染色した.アルミノン反応の試験片(右端)は薄赤色である.
・DC電解カラー(Sn/Ni利用,試験片のみ)
Fig. の画面左上に写っている緑色の溶液で行う.
が, 電解自体が失敗していた可能性が高いが,Niでは完全に失敗,Snではワークの凹みが黒っぽくなった程度だった.
・AC電解カラー(Ag利用,試験片,ブレーキ体,シマノHollowTech2クランク)
発色が金色~ブロンズ~黒となる,また硝酸銀を使うため試薬入手が難しい(のでせっかくだから),H2SO4/AgNO3を使った.この溶液は特に使用してしまうと保管がきかない.電極から析出したり,溶液中にゲル状沈殿が発生する.
硫酸銅も方法は同様,ワインレッド~黒の発色となる.
スライダックで交流につなぎ,対極を炭素(備長炭)とした.ゆっくり電圧を上げていくと,8Vぐらいで水素の泡が出,次いで一気に金色となる.ブロンズ~黒とするにはかなり長く電解する.ワークの形状により電極との距離の違いや電荷集中で一部だけ発色が進んでしまうので電解中にワーク位置の調整をすることがあった.AC電解カラーの予備実験をFig.12 に示す.
Fig.12 AC電解カラーの予備実験
アルミ試験片が足りなくなったため,その辺にあった中実材を試験片とした.表面が荒れていてくぼみか多いが,その箇所にはより早く着色が進んでいるようだ.電線のワイヤのほうが品質がよい.
この後,実際のワークをいれて電解したところ,エッチングで黒変したワークがまたも黒変した.そのあたりの写真は成果物のページで.
なお,電極との間にセパレータを入れた方がよかったと思う.
封孔
アンモニアを添加すると沸騰水なので鼻にくるうえ,表面に粉を吹いて仕上がりが良くなかった.強度重視でなければ純水のままで十分.
沸騰水95℃で3分,処理中の加温なし(電気ポットで沸騰させたので).
電解が上手くいっていれば,地金のままではあり得ない,ハサミの先でこすっても傷がつかない状態となる.全力で削れば傷つくが,これは表面強度Hv500を超えたためか,地金まで鋼がめり込んでいるため.
次回以降の課題
・DC電解カラーのやり直し
・AC電解カラーの硫酸銅
・シュウ酸電解