サーモグラフィ

可視化,というのは,1)感じられるけど,そのままでは見えない2)そもそも人間には感じられない現象を
「視覚情報としてに捉えられるようにする」手法,技術群のこと.
1)に相当するものは温度や音波など,
2)には密度の変化や,電波などがある.オーラやユーレイなどそもそも現象として存在しないものは含まない.

サーモグラフィは,「物質はおおよそ温度に応じた赤外波長のふく射を発生する」ことから,
赤外の光学系とセンサを並べたものでふく射の温度マップを作成するもの.
原理には,主にマイクロボロメータといって赤外吸収で生じた温度上昇によって電気抵抗が変化する素子を並べたものがある.
触れば分かるという点では温度は可視化が重要視されにくいが,視覚的に分かるようにすると異常は発見しやすい.
というか,人間は視覚による情報処理能力が特に優れているので,なんでも視覚化したほうが手っ取り早い,というだけのこと.
人類が滅びた後,もしコウモリが進化したら「聴覚化技術」について研究されるかもしれない.

非接触,単眼の放射温度計も存在するが,通常販売されているものは
・一つの素子の見ているエリア(角度)が広く,局所的な高温を発見できない.周りとの平均になるので,見落とす.
・スキャンするにはそれなりに手間がかかり,手間がかかるということは,
 重要でなさそうな所は見ない,ということになるが,そこに異常があるかもしれない
という点が問題となる.
放射温度計はエリアのおおよその温度をつかむためのものなので,
(比較的)ポイントの温度を,マップで得るという機材とはかなり異なる立ち位置のものになる.

ちなみに,常温の温度範囲では,可視光帯カメラではサーモグラフィになり得ない.
センサのバンドギャップを超えられないとか色々理由はあるのだけれど,
いちばんわかりやすい理由としては「遠赤外線はガラスを通らない」こと.
民生品のナイトビジョン(ソニーのハンディカムのオマケ機能的なもの)の類は
ガラスも通る環境中の近赤外反射を捉えたり,こちらから積極的に投光するシステムとセットで使うもので,
物体から温度に応じて勝手に放射されるものを観測する技術とは「月と太陽くらい」違う.
微弱可視光増幅型のナイトビジョン(スターライトスコープ)もだいぶ違う.

ガラスの例のとおり,可視光で透明なものが赤外光で透明とは限らない.
光を扱う上で避けて通れないのが,波長依存性である.
逆もまた然りで,遠赤外/FIRの帯域を扱う光学系は,
ゲルマニウム/Geやシリコン/Siやセレン化亜鉛/ZnSeやといった可視光を透過しない金属や化合物で作られる事もある.
(硫化亜鉛/ZnSやケイ石,石英の様に可視から赤外までブロードな帯域を持つものもある)
こういった素材は概して屈折率が大きいので,レンズが可視光のものと比べ扁平に見えるのも赤外の光学系の特徴となる.
ほぼ同じ帯域の10.6μm炭酸ガスレーザも反射光学系とZnSeレンズなどでできている.

さて,今回,
・「見えないものが見える」ことには,それだけでアドバンテージが存在する
(もちろん,原理的に可視であっても,他の人が見てないことを見られるひとはやはりアドバンテージなわけだが)
・修理や管理の時にべんり  最近ではソーラパネルの故障判定(セルが壊れると発熱する)に使ってるらしい
・あと,研究上,結果をトレーサブルな温度マップで観測したい
のために,サーモグラフィを調達することにした.


自前で.




選定
※学校その他の教育機関が2013年6月までに調達するなら,FLIR i7のアカデミック割引制度が使える.
普通の同業者はそっちで購入したほうが幸せになれる.9万円台なので消耗品費で収まる可能性高いし.
  (FLIRの公式プロモーションページ http://www.getflir.com/educational-promo-2013-jp/)
  (例えば,こんな代理店で http://www.t-ts.jp/html/academic_i7.html)
ただ,条件は教育機関の「教育目的」であり,身分が購入対象ではないこと,
(多少程度の逸脱は許されるだろうが,)あんまり色々やっていて契約違反になる可能性を踏みたくなかったので,対象から外した.
私だって教育補助でも使うし,研究でも使うし,温度管理の大切さを説く伝導師になるのは厭わないつもりだが,
学外に持ち出したくてわざわざ研究費から出さずに自腹切ってるので,変な縛りを付けられて持ち出せなくなるなら意味ナイ.

・FLIR iシリーズ
フリアーシステムズ(本来,FLIRは前方赤外監視装置の一般名称だが,産業用途だとFLIRは企業名として認識されることがあるかも)の
廉価帯シリーズの更に一番下,60*60 pixelsのモデル.観察と静止画のみ.
…廉価帯といってもi3でさえ10万ですが.

メーカ想定用途は建築/電設.
なんで建築に使うかというと,雨漏りが検出できるから(温度計の乾球と湿球を思い出してくれ.湿っている部分は蒸発で温度下がる).
電設では接触不良や過電流による温度上昇をみる.

画角は画素数に応じて広くなる.おそらく,同じ光学系のセンサ面に置く素子の違いでグレードを分けているのだろうと考えられる.
i3だと視野角は12.5°と,35mmフィルム換算で約100mmのレンズ程度となり,一度に近くで広く見るのはちょっとつらいかもしれない.
でも,これは実は親切な設計で,シリーズ内のグレード(画素数)にかかわらず,最接近(40cm)すれば同じ分解能で観察できるということ.
これは,あえて放射温度計でなくサーモグラフィを導入するのなら重要なポイントとなる.
装置を振りながら観察したり,遠くからだんだんと近づくなど工夫すれば視野角は解決できることが多いが,
解像度の改善を後からやるのは,非常に難しい.せっかくなら放射温度計より解像度高く出したい.
全体を一度に見たいときは,金だしてくださいw.iシリーズは,おおよそ画素数と価格が比例してます.
私の価格レンジはi3までですが..

IP43規格対応,上からの水には耐えます.逆さやドボンはアウトです
純正ソフトケースは,普通に使っていれば逆さ吊りにならないようになってますね.
正規代理店品で,ユーザ登録をきちんとすると,保証が伸びます.


FLUKE VT02 ビジュアル放射温度計
フルークの.日本未発売(発売予定はあるらしい).9万くらい.
なぜ名前が「ビジュアル放射温度計」なのかについて考えないといけない一品.
(フリアーのiシリーズだって,キャッチコピーは「放射温度計プラス」なのだが,意味合いはだいぶ異なる)

カタログ見ていただければ分かるかと思うが,これ,熱センサの画素数表記は無い.
書いてある画素数は可視光カメラのものだ.
カタログみてもらうと連続的なもっともらしい画面が出ているが,どうやら,補間かけているらしい.
というのも,海外のレビューで「小さいものの温度が相当低く出る」という記事が出ている.こちらこちら
ヘタすると15*15の熱画像装置と同等なのでは,とまで言われている状態のセンサを20°の視野に割り振ってしまうとどうなるか.
「放射温度計」というネーミングはどうやら正しいのではないか,という評価だった.名は体を表す.

同軸カメラが付いているのは便利で,測定箇所記録機能付き温度計だと割り切れれば使えると思う.

FLUKEも,サーモグラフィと名乗ってるグレードまで行けば,普通にサーモグラフィですが,価格レンジはかなり上になります..


おそらく,現時点におけるサーモグラフィ界で最も安いキット.
画素数は16*4,おそらMelexisMLX90620的な何かを使っているはず.
海外でも製作記事があるが,そこから推測すると素子コストがかなりを占めるので,
生産者の割が合わないような気がする.いつまでも作るかはわからない.
※最近では,ストロベリーリナックスさんの所で2100円程度で素子が手に入るようです.

1画素あたりの価格という点では実は割高だが,単価としては安いことに違いはない.
USBカメラとしてPCにつなぐ他に,センサ情報を温度データに読み替えた値として
シリアル通信で読み出したりできるそうなので,手を加えてなにかガジェットを作るにはむしろ向いてるかもしれない.


・Mu Opticsのなんか
あまりにも安すぎて疑われている,クラウドファウンディングななにか.
予定販売価格は$400なものの,早期購入割引だと$125-300に.160*120pixcels.
正直,スペックその他からみても,サギかマジかギリギリのライン過ぎてリンク貼って紹介できないw
当たれば,20倍以上の価格のカメラと戦えるというか,それ以下の機材を駆逐しかねないので,
1台ぶんやっちゃってみてはいるが
クラウドファウンディングって,集める額に応じて説明変えないとね,
2000万集める技術プロジェクトが,カナダのフェスに行く金がなくてカンパ募ってるのと同レベルじゃだめだよね,.



…まあ,素子が高いので,少ない予算では選定にならんのですが.
・最も弾数が出ていて値段がこなれている(いや,こなれてはないんだが)
ことと,
・可視同時撮影やビデオ機能はがんばれば自力で増設できる
 そう,実はこの高価格の本質はコアデバイスたる熱センサとその処理系(と測定器としての保証)なのですよ
・さすがにトレーサブルでないと研究用とはまずいよねぇ..
から,FLIR i3にした.もうちょっと画素がほしいと思わんでもないが,予算的に無理.

後はどこで買うかだが,調べてみると,秋葉原も部品屋さんはともかく測定器屋さんてもうほとんどないし,
あっても,なんというか,デモ機や評価機をお願いしたり,どんな機材買うか相談するなら必要なんだろうけど,
買うものが決まっているなら,単に安くもないのに面倒になるだけなので,
ネットで買ってしまった(純正ソフトポーチのオマケに釣られた,ともいうが).
FLIRは正規ルート品なら代理店通さなくても修理依頼できそうだったし.
便利さに慣れたAmazon世代を取り込まないと,リアル店の役目は評価機貸し出さなきゃいけないような機材だけになるような気がする.



さて,ボロメータ式放射温度計の一般的な注意事項として.
・太陽を見せてはいけない
太陽は,表面が約6000℃の熱源であり,それに応じた赤外放射をしている.
一般用途のサーモグラフィは300℃程度までしか測定できない.
測定外もある程度は耐えるものの,明らかに太陽はその範囲を逸脱しているため,素子が熱損傷するおそれがある.
説明書に明示的に記載されていない限り,積極的に太陽に向けてはならない.
最近開発された素子に「Sun Safe」とか書いてあるってことは,それが売りになるってことです.

赤外測温計としては
・炭酸ガスレーザ照射部に向けてはならない
ちょうど,炭酸ガスレーザの波長と放射温度計やサーモグラフィの使う波長は同じくらいである.
そうすると,使う光学系の構成も似たようなものになるので,レーザ光がセンサに突っ込む.
太陽どころではない光量なので,クラス4なら拡散反射光も見せないほうがいいと思う.

YAGなど,近赤外光帯域より波長が短い場合は,材質にもよるがたいていレンズを透過しないので,たぶんセンサまで届かない.たぶん.
マジにやる場合はメーカに確認とったほうがいいと思う.
あと,照射によってレンズが破損するほどのエネルギーを直接浴びせると,レンズが破損します(当然).
また,素子で見ているレーザ照射点や溶接点のスポット温度がセンサ限界を超えると,
波長に関係なく黒体放射でセンサが死ぬと思います.
金属が蒸発するレベルの到達温度だと非常に危険です.



資料集
・テストーさんとこのポケットガイド
 日本語の基本的データは貴重. あと,放射率表がある

スポットメーターはいくつかのピクセルの平均を表していますか?
サーモグラフィ測定の「正しい」温度はどう測るべきかについて

というか,FLIRさんとこは,FAQはEnglishサイトに行ったほうが圧倒的に情報量多い.
Is it possible to use the camera in vacuum?
真空下で使えるかについて.使えるけど,空冷部分が放熱厳しくなるんで,
連続運用するのであれば冷却系を改造した方がいい,NASAが宇宙に持ってったの参考にしてね.

・Using cameras close to high intensity energy sources, such as laser devices and other sources
 高パワー赤外源ぶちかますとどうなる?
とりあえず取説の注意を見てくれ,と.で,センサが一番弱いので,センサ基準で計算しろ,と
波長と透過率も関係するが,個々のレーザのデータはないので換算してくれ.
<太陽に短時間向けると,画面焼けが数分起きるかもしれないが,数分でなくなり,おそらく永続的なダメージは残らない>
※<>部は訳が正しいか検討中.違ってるとクリティカルなので各自原文をみて判断すること.
遠赤外線だと,500℃のスポットがある時,センサの画素に与えるパワー密度は100mW/cm^2で,これはリスクにならない.
6000℃だと2W/cm^2に達する.連続的にこれ以上の照射を受けてはいけない.
パルスレーザ源については,データを持っていない.

FLIR がサーマル イメージング FPGA の開発を加速
デジカメでありがちなASICではなくて,FPGAでデータ処理してるらしい,っていうかrawイメージすごいね.

・各種赤外透過材料の一覧
帯域,潮解性,屈折率など,どんな材料なら赤外窓になるかの参考に

・遠赤外線カメラ用途のZnS レンズの開発
ゲルマニウム高いので,代替用に開発されたらしい.
ちなみに,粉末で買うと劇物なんでは疑惑.それ言い始めたらZnSeも「燃えたらとりあえず逃げとけ」的な毒物ですけどね.

・FLIR iシリーズ日本語版の簡易マニュアル類
基本,英語商品ですので.大きな代理店のアズビルさんが日本語の簡易マニュアルを用意している.ページ下のほう.

・じゃあ,英語版のマニュアルはっていうと
公式にはユーザ登録しないと見られないことになってますが,海外の代理店さんで投げちゃってるところもありますね.
マニュアルなのに,赤外技術の歴史についてやサーモグラフィの原理についての読み物がついていたり,なかなか面白い構成.
放射率表もあります.
※購入して登録すると,FLIRから日本語に翻訳したマニュアルがダウンロード可能

・ウソかホントかわからないクラウドファウンディングな何かが,もしマジだとしたら,多分このへんの素子
http://www.ulis-ir.com/uploads/Products/Nano160P-UL02152.pdf                                  UL02152-020 Nano160Pカタログ
http://www.wat.edu.pl/review/optor/14(1)25.pdf                                                            Uncooled microbolometer detector: recent developments at ULIS
http://www.icu-eu.com/attachments/File/Bolometer_Review_SPIE_Published.pdf           MEMS-Based Uncooled Infrared Bolometer Arrays – A Review
http://www.vision-sensing.jp/images/20111227092255000000.pdf                                  工業用途における遠赤外線シャッタレスカメラの優位性と適用事例
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