再栓式アルミ缶は破裂するか 書きかけ

一部写真がまだです

概要:
蓋にバルブを接続した500mlアルミ再栓式缶に水を入れた上でハンドポンプで空圧をかけた.
8気圧まで缶に変化なし,その後8-10気圧で缶底の鏡板ドームが膨らむ安全装置が作動.
その後も8気圧まで耐えるので圧かけて側壁にキリで穴を空け破壊したが,側壁は亀裂しなかった.
事件と破損形態が食い違うので早急な解明が待たれる.

背景:
都内地下鉄で以下の様な事故があった:
店舗清掃用のアルカリ系強力洗剤を,コーヒー飲料用再栓式アルミ缶に入れて持ち帰る途中,電車内で破裂した

まあ詳細は好きな新聞社のニュースを見ていただくとして.

破裂した缶はこんな感じになったそうだ
TVで放映されたとされるもの.まとめサイトより
現場にいたとされる人物(aoKaeru氏)による撮影

破裂の直接の原因になったものは「気体の発生による内圧上昇」であることは間違いないだろう.破裂だし.
  "名古屋大学大学院の石原一彰教授(有機合成化学)によると、
  強アルカリと水が反応すると、発熱して水蒸気が発生し、アルミ缶のアルミニウムと反応すれば、水素ガスが発生する。"
とあるが,水蒸気が発生するほどの融解熱が出たら缶に詰めた時点でわかるはずであるし,また濃度変化時の一時的な反応である.
アルカリがアルミニウムとの反応で水素発生したと考えるのが妥当ではないかと考える.
(アルミとアルカリの反応で水素が出る理由については,高校化学の教科書でも読んでくれ.ここでは説明しない)

アルミニウムと反応するには,薬剤と金属が反応する必要があるが,缶の内側には飲料と反応しないよう樹脂によりコーティングされている.
キャップ部は軟質樹脂のパッキンが覆っており,開封しても通常はコーティングが切れる部分はない.
偶然,凹んだ部分のコートが破損するようなことが起きたか,
( 日本化学会 近畿支部)の説明のように,
アルカリによってコートが損傷し金属面が露出したとと考えられる.

さて,最近増えてきたアルミ缶入りの飲料製品.
とくに絞り加工やプレス技術の発達により,栓ができるビール缶や炭酸水などもある.
コーヒー飲料への適用は窒素充填技術によって缶形状が維持できるようになったことが大きいそうだ.
厳密にいうと炭酸飲料と非炭酸飲料の容器は強度基準が違うのだが,
炭酸飲料にも適用出来る技術というのであれば,破損対策は考えられているはずであり,
実際,うっかり炭酸水を冷やすのに冷凍庫に入れて忘れてしまい,
凍って破損した事例などを見ても,底板が膨らむなどの安全機能が作動し,破裂するようなことはない.

そのため,事故のように,「破裂」という破壊モードによって破損する事態はレアケースで,
通常は
・キャップからリークする
・先に底が破損する
・腐食による場合も,側壁が部分的に弱くなると破裂前に染みたり漏れたりする
のように破裂という形態を伴わずに破壊すると予想したので,追試を行なって確認してみた.


実験方法:
※薬品を使用して破裂試験を再現すると同じように病院送りを再現してしまう
可能性があるので,圧力の観点のみ実験する.(そーゆー試験は本職に任せます)

現場の写真で形状がはっきりしたので,コンビニで再栓式アルミ缶入りコーヒーを購入してスタッフが美味しくいただく.
(当初情報が錯綜しており,500ml缶を買ってしまったが,実験上,側壁強度の違いは誤差の範囲と思われる.)

・缶のキャップ部分に自転車用バルブを取り付ける.
今回はそのへんに余っていた英式バルブチューブとスーパーバルブを利用した.
  (スーパーバルブ:従来の英式バルブの逆止に用いられてきた寿命の短い虫ゴム(推奨点検間隔は1ヶ月!)の代わりに,
  上下するゴムが流路に栓をするタイプ.空気を入れる際の抵抗も小さいためより正確な内圧が分かる.
  自転車店の他,100円均一ショップで販売されている.)
チューブのバルブ部を周囲にゴム部が残るよう切り取り,バルブの径をはかる.10mm位だった.
キャップ中央部にドリルで10mmの穴を開ける.
薄い板に穴あけするので,可能ならローソクドリルを使うと仕上がりが良い.

キャップ内側とバルブのゴム部にボンドを塗り,内圧がかかった際外れないよう内側から通し,接着する.
バルブとリムを固定するナットを締め,その上からもボンドで密閉する.
乾くのを待ち,バルブを取り付ける.


ボトルに水を入れる.圧縮性流体の容積が多すぎると破裂時の挙動が危険となる可能性がより高くなるため,
450-500ml程度水で満たした.バルブ付きキャップを閉め,密閉する.

※実験は安全のため屋外で行い,防御力の高い作業服上下,耐衝撃ゴーグル,飛散物用フェイスシールドを使用し防御した.
また発生するかもしれない飛散物の威力を減衰するため,観察箇所以外の方向にはダンボールによる遮蔽を設置した.

圧力をかけるために,自転車用手動ポンプを使用した.このポンプのメータで圧力を把握する.
ポンプと接続後,缶を横にし,キャップ部に液体が接触するようにした.これはキャップリークを発見しやすくするため.

圧力をかけたところ,8気圧までは異常は見られなかった
コーヒーを飲む際に凹ませて折り目のついた部分が圧力で平らになっている.
8-10気圧地点で,「ポン」という音(あまり大きくはない)がした.
缶底部の鏡板に当たる部分(強度維持のため内側に向かってへこんでいる)が
外側に向かって反転するように膨らみ,それにともなって缶底肩部のテーパ形状も変形した.
キャップは頂面が膨らんで見えるがねじ部やバルブ接続部からのリークはない.

膨らんだことで内容積が増えたので,再度8気圧超まで圧力を上げた.
特に追加の異常は起きなかったこと,ポンプの能力的にカメラを撮りながらてきとーに押せる限界に達したこと,
既に缶形状が事故と異なっていることから圧力試験を終了した.

圧がかかっている状態で,スポット的に腐食して缶壁破壊したことを想定し,
8気圧をかけた状態で,側面部にキリを落下させ開口させた
刺さったキリが内圧で押し出され,気体の抜ける音がしたのみであり,
側面部は刺さったキリの大きさより亀裂が広がらなかった.
缶底が膨らみ,側面にキリによる穴がある.


追記:動画こちら


結果まとめ:
・缶は事故現場のような破損形状にはならなかった.
・キャップのシールは頑丈かつ弾力に富み,加圧しても漏れない.
・側壁より底のほうが弱く先に変形する

考察:
今回実験した結果,再栓式アルミ缶は内圧上昇に対し相当タフであり,
また安全のために予防的に破損する部分(底)があることが確認できた.
中身が発酵するか,ドライアイスや強アルカリを入れない限り
まず事故にならないだけの強度的余裕を見て,開発・製造されていると考えられる.
実際問題,10気圧超,100ml超の圧力容器は高圧ガス保安法に引っかかるので,
通常使用出来る圧力範囲としては強度的に全く問題無いだろう.
参考までに,炭酸飲料用ペットボトルの圧力範囲をPETボトルの諸性質 (湘南台高校・山本明利)より示すと,
  "50℃ → 8kgf/cm2(約8気圧)""店頭に並ぶ炭酸飲料の内部圧力は上記圧力より2~3割減圧"
だそうだ. 

実験の挙動より,事故時には以下の条件であったことが推測される.
・破裂直前の内部圧力はおおむね8気圧以下(事故品の写真では底部がほぼ原形を保っている)
・上の条件を満たしつつ,亀裂するような条件に缶側部が変化していた(普通は穴をあけても破裂しない)
言いたいのは,単純に圧が上がっただけでは破損状況に説明がつかないってことだ.


じゃあ,どんなことが起きれば発生しうる?
(※推測になります)
・既に缶にダメージがあった
例えば,コーヒーを飲んでいるときに側面をへこませるなどした場合.
今回実験に利用したボトルは,美味しく頂いている途中,うっかり一度ヘコませてしまった
ものであり,その程度では大勢に影響しないことがわかっているが,
繰り返しペコペコやられると金属疲労で線状に弱い部分ができる可能性がある.

・薬剤の影響?
アルカリ環境下のみでアルミニウムが強度低下する直接的な原因は無いように思われる.
腐食の過程で減肉したり,表面が荒れた場合は強度に影響するだろうが,
その場合も大抵は弱い部分から破壊するか,破れたところから吹き出す程度で,亀裂が広がるとは思えない.

・衝撃がかかった場合
例えば,車内の床にボトルを落っことした場合など.
内圧がかかっている状態で床に当たると,落ち方にもよるが,
側壁の円周方向に開こうとする力が発生し,それによって破断応力を超える部分が発生する可能性や,
瞬間的に一部が凹んで,内圧で押し戻される過程で金属疲労し破断する可能性はある.

水素脆性の影響
鉄鋼ほどではないが,アルミニウムも水素によって脆化する.
ちょうど内圧によって引張応力場となっており応力腐食割れを起こしやすい条件ではある.
アルカリ溶液下で不働態膜が維持できないことも条件を悪くすると思われる.
問題は「どのくらいの圧力でどのくらいの時間暴露されると脆化するか」であり,これは軽金属の専門家に訊いてみないとわからない.
イメージとしてはそんなに短時間で発生するようには思えないが,
鉄鋼だと数時間で発生することもあるようだ(4時間以内に処理しろという指示がある) (城南電化情報委員会).



参考文献URL:本文中に引用時に随時リンクとして表示している
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