DIY 自作シュリーレン装置で撮影してみよう

はい,シュリーレンです.世間一般の「なんか魔術的な装備を駆使した特殊技術」という既成概念を打ち破るべく,
今回はそのへんにあるものでそこそこの性能を出してみようと思います.
みなさんにも試していただけるものになるはずですが,
まあたいていのひとは人生においてシュリーレン装置のお世話になることってほとんどないような気もしますね.
ちなみに,シュリーレンさんが開発したわけではありませんのでご注意.


教科書には,よく以下の構成が載っているはずです,
まあ教科書も光学屋が書いたものと,流体などが専門で実験上可視化技術が必要で
シュリーレン装置扱ってる人が書いたもので書き方に微妙な差異があったりするものなのですが.


       教科書的なシュリーレン1: 2枚の凹面鏡を使ったシュリーレン装置
じっさい,この形式が一番普及はしてると思います.
光源をコリメート光にするところ,実験区間,集光してナイフエッジを入れて撮影する区間に大別されます.
このほか,

        教科書的なシュリーレン2: 凸レンズを使った構成
という,凹面鏡の代わりに凸レンズを使ったタイプもありがちなものです.
このタイプは光学系が直線状に配置できるため理解がしやすいという利点とひきかえに,
「レンズは鏡より大きくしづらい」「収差の影響が出る」などの難点を抱え込むことになります.


実は並行光なんていらない!?
さて,シュリーレン光学系では「並行光となっているテストセクションで実験する」ことが半ば当たり前のように語られていることがたまにあります.
とにかく必死にセクションの並行光を調整していたり.
でもこれは本当なのでしょうか.以下に,凹面鏡を1枚のみ使用した装置の概略を示します.

        単凹面鏡型のシュリーレン装置
これ,どこにも並行光の区間はないんですよ.でも動作する.
シュリーレン装置の本質は,
「交差しない光束の通るテストセクションで媒質の屈折率変化によって光路が曲がる(ここにたまたま並行光を使っていることが多い)」,
「光路の曲がりがセクションを進んでいくことで拡大される(ここに距離が必要)」,
「集光点におかれたナイフエッジで主光束と曲がった光路の一部が切られる(これがないとシャドウグラフになる)」
にあるとみています.

今回はこの一番簡素な凹面鏡1枚構成のシュリーレン装置を自作し組み立ててみようと思います.


凹面鏡1枚タイプのセットアップ
使うもの
・光源
1-3W位のLED懐中電灯
ビームが拡散するタイプか,リフレクタついているタイプかとかは気にしません.
なぜなら,アルミホイルで前面を覆ってしまったうえで,中央部分にだけアルミホイルに穴をあけることで
点光源として利用するからです.
開ける穴の大きさは,小さいほうが点光源として利用しやすい一方で暗くなってくるので,
ライトの性能やカメラの感度と相談しながら少しずつ大きくしましょう.
ハイスピードカメラを使わないのなら,だいたい竹串程度の太さで十分に利用できるはずです.

・凹面鏡
2-3倍のメイク用拡大鏡として売られているものの中から適当にゆがみが小さくてマシそうなものを選びます.
(写真のものははずれでした.外周がゆがんでる)
倍率をあげるほど短い距離で実験できますが,装置の感度は大幅に落ちていくものと考えられます.
直径は100-150mm位ないとセットアップで難儀します.

・カメラ
スクリーンの代わりに設置します.
スクリーン観察をするのは部屋を暗くしないとほとんど見えないでしょうし,
そもそもいまどき,録画もせずに観察のみするなどまれであるので,最初から撮像素子を置くつもりで配置します.
レンズ交換式のものがよいでしょう.コンデジなら,ズームがある程度効くのが最低条件ですが,
絞りやフォーカス位置をマニュアルで設定できるものでないと苦しいです.
凹面鏡の倍率が小さいほど鏡とカメラの距離が離れていくので,
ズームが効かないと小さすぎて何が写っているのかわからなくなります.
レンズ交換式カメラの場合,レンズを外してしまってセンサ面を直接スクリーンのように使う方法も可能です.


作業
・鏡の焦点距離を求める 
曲率が書いてあったらラッキーです.焦点距離は曲率の1/2のところにあります.
まあたいていはメイク用の鏡に焦点距離は書いてありませんので,大まかな値を把握します.
無限遠光源,太陽光などを利用すると,雑な鏡でもおよその集光点がわかるので焦点距離を追えます(集光した光で焦がさないよう注意).
焦点距離が不明なまま実験する手法もあります.
理科でやるように,点光源を照射して鏡からの反射が収束しないうちは点光源は焦点距離より内側,
光源より後ろに集光するときははf<2f,光源より鏡側に集光点が来るときは2fより遠いです.

・鏡とLEDライトを設置する
鏡をどこかにおきます.たいていカメラとの距離が必要になるので部屋の端がいいでしょう.
穴のあいたアルミホイルをかぶせて点光源化したライトを鏡の焦点距離の2倍よりわずかに遠くに,鏡の高さとだいたい揃えて設置します.
あとでお話しするような問題が出なければ,カメラのすぐ真横に置いたほうがセッティングが楽です.
点光源化しているため光量が小さくて見えづらいですが,なんとか頑張って鏡のほうにライトを向けます.
カメラはライトの隣においといてください.

・鏡の向きを調節する
これまでの設置で,鏡からは2fよりわずかに短い距離の地点に徐々に集光していく光が出てきているはずです.
この光をカメラのレンズ中心にあたるよう鏡の向きを調節します.
レンズキャップがはまっているほうがレンズの中心を追いやすいでしょう.

・カメラのズームと焦点距離をいじる,カメラの位置を直す
ライトの隣に設置したカメラのズームを,鏡が可能な範囲で大きく映るように調整します.
そのさい,レンズの絞りはあけられるだけあけておきます.絞り込むと円形状に黒い部分が出てしまいます.
さらに焦点を無限遠の位置に合わせておきます.
そうすると,
ラッキーにも光軸がだいたい一致したならばこんな風に写ります.
ここからカメラ位置を上下左右に動かし,黒い影の部分ができるだけ全周にまんべんなく広がるようにします.
(大きく位置をずらした場合は鏡の角度も再調節するように)

少し位置が直りました.
(この鏡の場合,使えるのは中央のグレーの部分で,最外周は使い物になっていないですね)
そうしたら,今度はカメラ位置を前後に動かして,黒いわっかができるだけ小さくなるような位置を探します.
鏡とカメラの高さが完全に一致していれば前後させるだけですが,ずれがあるようでしたら,
カメラを移動させた後,適宜鏡の角度を再調節してカメラレンズの中心に光をあてます.

今回はこのくらいでだいたい視野が確保できたので良いことにしました.
この状態でテストセクション(鏡の前)で実験すれば,シャドウグラフ法になります.

・ナイフエッジを入れる
ナイフエッジを入れてシュリーレン光学系にします.
薄くてしっかりしてるものが何かと都合がいいので,たいていはカミソリやカッターの刃などを使いますが,
DIYでやっている程度なら名前通りの刃物である必要は必ずしもありません.

ナイフエッジの基本的な仕事は
「主光束を適度にさえぎることで視野の輝度を下げる」
「テストセクションで屈折した光の一部をさえぎる」
ことで,セクションで屈折した光により暗くなるところとより明るくなるところが発生することにあると考えています.
これによって,ただ暗くなっていくだけのシャドウグラフより感度が上がるはずです.

レンズと鏡の間に,もっとも集光しているところがあるので,そこを狙ってナイフエッジを入れてみます.
入れる位置がよくないと,片側から真っ暗になっていくように翳ってきます.
こうなってしまうと黒い部分には何も映らず,白い部分はシャドウグラフのままになってしまいます.

入れる位置があってくると,光路を徐々にナイフエッジでさえぎっていくと,
ぼんやりとした影が発生します.(画面上側の影.右下はカメラの絞りでさえぎられてるだけ)
これを完全に真っ暗にならないように,かつできるだけ広い面積がうっすら暗くなるようにナイフエッジの差し込み具合を調節します.


集光性能が悪くてどうにも扱いづらい場合,カッターの刃にあいた穴などのピンホール状のものをナイフエッジとするとうまくいくことがあります.

まあおもに鏡次第ですが,だいたいこのくらい薄ら暗いところが出てくれば運用可能でしょう.
(こっそりと鏡を品質がマシだった3倍鏡に取り替えているのは内緒)

セットアップが終わったら,動画なり写真なりの撮影ですね.
熱したはんだごて,ガスライター,ロウソク,エアダスターあたりはお手軽シュリーレン装置でも見える確率が高いです.
(100℃単位の温度変化,ガスの大気との密度の違いがあるので顕著に見える.)
注意点としては,可燃性のエアダスターとライターその他火気を同時使用しないこと.火事になります.
エアダスターの最大噴射.特有のパターンが見える


今回のお手軽DIYシュリーレン装置で撮影した動画が以下のものになります.
がんばればもう少し感度が上がりそうな気がします.

この動画のように,「ロウソクの火など,対象物も影ではなく写るようにする」にはどうしたらよいでしょうか.
対象物(ここではロウソク)にピントを合わせ,
対象が出す光をマスクしてしまわないよう,シュリーレン用の光源をあまり強くせず,
さらに対象物を適切に照明してあげると,対象が影絵でない状態で,発光も同時に観察することができます.

3倍鏡を使用したときに,光源の位置とカメラの位置のずれが反映されてそのままだとロウソクが2重に映ってしまう問題が出ました.
これに対しては,あえて光源をカメラから離して角度をつけて鏡に照射することでひとつめの像を画面の外に追いやるトリックを使っています.
よく見ると画面の左端に追い出されたライターの揺らぎが見える場面があるでしょ?







オマケ
本当に性能が良い専用の長焦点凹面鏡を使用すると,同様のセットアップで体温による大気の揺らぎまで観察できます.
このへんは
・鏡の性能悪いと一点に集光しないのでナイフエッジが入れにくい
・仕組み上,焦点距離が長いほうが感度が上がる
がもろに効いているような感じです.
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